借金を相続しないために選択されることが多い相続放棄ですが、実は、注意すべき落とし穴がいくつも存在します。

この落とし穴にはまってしまうと、最悪の場合、相続放棄ができなくなることもありますから、慎重に手続きを進めていくことが重要です。

 

そこで、ここでは、相続放棄時に注意すべき6つのポイントを説明していきます。どれも非常に重要なものばかりですから、注意して読み進めてください。

それでは、見ていきましょう。

〈その1〉口頭で伝えるだけでは相続放棄はできない

口頭で伝えただけでは相続放棄はできず、家庭裁判所への申述が必要

相続放棄をしたい場合、他の相続人や債権者に対して、

「私は相続放棄をしました」

と伝えるだけでは、相続放棄は成立しません

 

相続放棄を有効に成立させるためには、必ずその旨を家庭裁判所に申述しなければなりません。

面倒だと思われるかもしれませんが、必ず守らなければならない最低限のルールですから、必ず申述するようにしましょう。

面倒だからといって、間違っても放置してはいけません。借金を相続してしまいます。

第九百三十八条
相続の放棄をしようとする者は、その旨を家庭裁判所に申述しなければならない。

 

 

〈その2〉3ヶ月以内に相続放棄の手続きを

相続放棄の期限は、相続人が自己の為に相続が開始したことを知ってから3か月間である

相続放棄は、自己のために相続が始まったことを知ったときから3ヶ月以内に手続きしなければなりません。この3ヶ月の期間を熟慮期間といいます。

この熟慮期間内に手続きを行わないと、相続放棄を選択できなくなってしまいます。

第九百十五条
相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。ただし、この期間は、利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所において伸長することができる。

 

 

「相続の開始から3ヶ月」ではない!

相続放棄の期限である熟慮期間は、相続開始から3か月ではない

相続の開始時点とは、被相続人の死亡時点を指します。

第八百八十二条
相続は、死亡によって開始する。

しかし、相続放棄の期限は「相続が開始してから3ヶ月」ではありません。

 

「自己のために相続が始まったことを知ったときから3ヶ月」

 

なのです。

そのため、「熟慮期間が経過したから相続放棄できない」と思っていても、次のような場合には熟慮期間が経過しておらず、相続放棄できる可能性もありますので、専門家にご相談されるのがよいでしょう。

 

  • 相続が始まったことを知らなかった場合
  • 相続が始まったことは知っていたが、自分が相続人であることを知らなかった場合

 

 

借金の存在が後日判明した場合でも、相続放棄は可能か?

借金の存在が後日判明した場合に、相続放棄はできるのか

では、相続が開始したことも、自分が相続人であることも知っていたが、額の借金の存在が後日判明した場合は、相続放棄できるのでしょうか?

 

熟慮期間経過後に借金の存在が判明した場合に相続放棄できるかは、法律上は明記されていません。しかし、次のような判例が最高裁で出されています。

 

(昭和59年4月27日最高裁判例)
相続人において相続開始の原因となる事実及びこれにより自己が法律上相続人となった事実を知った時から3か月以内に限定承認又は相続放棄をしなかったのが、相続財産が全く存在しないと信じたためであり、かつ、このように信ずるについて相当な理由がある場合には、相続人が相続財産の全部若しくは一部の存在を認識した時又は通常これを認識しうべかりし時から起算するのが相当である。

 

つまり、借金が相続財産に含まれるのを知らないことに相当の理由がある場合には「熟慮期間は相続財産を知ったときから起算する」と解釈されています。

そのため、相続を開始したことは知っていたが、3か月以上が経過してから借金の存在が判明した場合でも、すぐに手続きを行えば間に合う可能性があります。

その可能性がある方は、早めに専門家にご相談されるのがよいでしょう。

 

 

期限内に相続放棄の手続きを行うためにできる4つのこと

相続放棄の期限である熟慮期間を守るためにできる4つのことを解説しています

限られた時間の中で相続放棄の手続きを行うことは相当な負担になることは間違いありません。

そこで、ここでは、期限内に相続放棄の手続きを行うために必要な4つのことを紹介していきます。

 

【期限を守るために必要な4つのこと】

  1. 債権者からの通知を放置しない
  2. 相続財産の調査はお早めに
  3. 熟慮期間の伸長を申し立てる
  4. 専門家に早めに相談する

 

1.債権者からの通知を放置しない

債権者からの通知があった時点で、熟慮期間がスタートしてしまうため、注意が必要だ

相続放棄の熟慮期間は、自己のために相続があったことを知ったときから起算されます。では、債権者からの通知を放置していた場合でも、起算されないのでしょうか?

 

実は、債権者からの通知があると、その時点から熟慮期間が起算されてしまいます。そのため、債権者からの通知は必ず目を通し、迅速に相続放棄の手続きに移りましょう。

 

 

2.相続財産の調査はお早めに

相続放棄の手続きに迅速に移行するためには早めに相続財産を調査する必要がある

相続放棄は多くの場合、被相続人の借金が多額の場合に選択されます。その前提として、相続財産の内容を把握しておく必要があります。

でないと、実は借金よりも多くのプラスの遺産があることが後日判明し、

 

「相続放棄しなければよかった・・・」

 

と後悔する事態になりかねません。

第九百十五条
2 相続人は、相続の承認又は放棄をする前に、相続財産の調査をすることができる。

 

 

3.相続放棄の熟慮期間の伸長を申請する

相続放棄の期限である熟慮期間は伸長することが可能

相続財産の調査に時間がかかる等の特別な理由がある場合には、熟慮期間の伸長を家庭裁判所に申立てることができます。

この申立てを行う場合も、相続放棄と同様に、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内にする必要があります。

第九百十五条
相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。ただし、この期間は、利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所において伸長することができる。

 

 

4.専門家に早めに相談する

専門家に相談するのが最も効果的

専門家に早めに相談するのが最も確実です。

相続放棄では、問題をうやむやにしておくことが最も危険ですから、一人で悩まないようにしましょう。

手続きに必要な書類の収集や、家庭裁判所への申述など、必要な手続きをすべて専門家に任せておけば、スムースに相続放棄をすることができます。

 

【関連記事】相続放棄を期限内に行うために知っておきたい5つのポイント~やさしい相続マニュアル~

 

 

〈その3〉相続開始の前に手続きはできない

相続放棄は被相続人の生前にはできない

相続放棄の手続きは、熟慮期間内に行わなければなりません。

それなら、被相続人の生前に手続きを済ませておけばよいとも考えられますが、相続放棄の手続きを被相続人の生前に行うことはできません。なぜなら、相続放棄の手続きは「自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内」にしなければならないためです。

 

ただし、相続放棄の手続きのための準備を行うことは可能です。

たとえば、被相続人(となる予定の方)の財産の内容を事前に調べておけば、スムースに相続放棄の手続きに移ることができます。

 

 

〈その4〉相続放棄をするなら、遺産を処分してはいけない

遺産の処分

相続放棄をするなら、相続財産を勝手に処分してはいけません

もしも勝手に処分してしまうと、単純承認を選択したものとみなされ、相続放棄ができなくなってしまいます。

第九百二十条
相続人は、単純承認をしたときは、無限に被相続人の権利義務を承継する。

第九百二十一条
次に掲げる場合には、相続人は、単純承認をしたものとみなす。
一  相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき。ただし、保存行為及び第六百二条に定める期間を超えない賃貸をすることは、この限りでない。

 

 

相続放棄の際に問題となる相続財産の処分とは

処分行為に要注意

相続財産の処分には、たとえば次の行為が含まれます。

 

  • 相続財産の売却
  • 相続財産の廃棄
  • 遺産分割協議
  • 債権の取り立て

 

一方、相続財産の処分に該当しないと判断されるのは、次のような場合です。

 

  • 修繕などの保存行為
  • 葬儀費用の支払い
  • 仏壇や墓石の購入
  • 少額の形見分け

 

ただし、処分行為に該当するかどうかの判断は個別の事案ごとに異なり、専門的な知識が必要となります。

相続財産の処分でお悩みの場合は、専門家にご相談されるのがよいでしょう。

 

【関連記事】遺産から葬儀費用を支払うと、相続放棄できない?~やさしい相続の基礎知識~

 

 

〈その5〉相続放棄は取り消せない

相続放棄は取り消しできない

相続放棄を選択し、一度手続きを行うと、その後の撤回はできません

そのため、相続放棄をしようとする場合には、今一度「自分は相続放棄をすべきなのか」をしっかりとご確認ください。

第九百十九条
相続の承認及び放棄は、第九百十五条第一項の期間内でも、撤回することができない。

 

 

〈その6〉相続財産の管理は相続放棄しても無視できない

相続財産の管理は無視できない

相続放棄をするからといって、相続財産をほったらかしにしてはいけません。

相続放棄をする相続人は、次に相続人になる人が管理を始めるまで、相続財産を管理する義務を負うからです。

ただし、相続放棄が完了すれば、その義務から解放されますから、一刻も早く相続放棄の手続きを行いましょう。

第九百四十条
相続の放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない。

 

 

この記事のまとめ

専門家の見解

いかがでしたか?

「相続放棄を行う」と簡単に言っても、いくつも注意すべき点があることがお分かりいただけたでしょうか?

ここで解説した点に注意しながら、一刻も早く、無事に相続放棄の手続きを終えられるようにしましょう。

 

【相続放棄の関連記事】

要注意!相続放棄の手続きには期限がある

相続放棄を期限までに行うために知っておきたい5つのポイント

遺産から葬儀費用を支払うと、相続放棄できないって本当?

相続放棄のすべて-やさしい相続マニュアル

相続放棄の手続きがわかる8つのステップ

相続放棄をすると代襲相続できない?

相続放棄の手続きの流れと必要書類・費用まとめ

相続放棄を撤回できる6つの条件とその手続きとは?

相続放棄の手続きで受け取るべき書類「相続放棄申述受理証明書」とは?

相続放棄しても生命保険の保険金は受け取れる

相続放棄の期限が過ぎてしまったらどうすればいい?その対処法を徹底解説

【決定版】相続放棄でよくある質問8選!

 

執筆者: やさしい相続編集部