借金の相続を回避するために行われることが多い相続放棄ですが、その手続きで失敗してしまう方が少なからずいます。相続放棄の手続きで失敗すると、最悪の場合、相続放棄ができなくなってしまいます。

 

そして、その失敗の多くは、相続放棄の手続きをしっかりと知らなかったことが原因です。

 

ここでは、相続放棄手続きの8つのステップを、注意点も交えながら、すべてガイドしていきます。しっかりと読み進めていただき、来る相続放棄に備えてください。
それでは、見ていきましょう。

相続放棄手続きの全体像

相続放棄に必要な手続きの全体像
相続放棄の手続きは、次の流れで進んでいきます。

  1. 相続財産を調査する
  2. 相続放棄をするかどうかを決める
  3. 管轄の裁判所を調べる
  4. 必要な書類を集める
  5. 申述書に必要事項を記入・提出する
  6. 照会書を入手する
  7. 相続放棄申述受理通知書を入手する
  8. 必要な場合には、相続放棄申述受理証明書を入手する

 

ここからは、この流れに沿って、相続放棄の手続きを見ていきましょう。

 

〈ステップ1〉相続財産を調査する

相続財産を調査するところから相続放棄の手続きは始まる

通常、借金などのマイナスの財産が、現金や不動産といったプラスの財産よりも多い場合に、相続放棄を選択します。

そのため、相続放棄を選択するにあたっては、相続財産の調査が前提となります。

第九百十五条
相続人は、相続の承認又は放棄をする前に、相続財産の調査をすることができる。

ここでは、財産の種類ごとに相続財産の調査方法を説明していきます。

 

【相続財産の調査方法】

  1. 不動産の調査方法
  2. 預貯金の調査方法
  3. 株式・公社債・投資信託の調査方法
  4. 借金の調査方法

 

1.不動産の調査方法

不動産の調査方法をくわしく解説

不動産に関する情報を入手できるのは、

  • 被相続人のご自宅
  • 法務局
  • 各地の市区町村役場

です。

 

不動産に関する書類は多岐に渡りますので、相続財産に不動産が多く含まれている場合には、専門家に依頼されるのがよいでしょう。

 

 

被相続人のご自宅での不動産の調査

被相続人のご自宅には、不動産の登記権利書不動産の課税に係る通知書が保管されている可能性があります。

これらの書類をを探す場合は、ご自宅を重点的に探しましょう。

 

 

法務局での不動産の調査

法務局には、権利書名寄帳記載の土地の登記簿謄本がありますから、これらの書類を取り寄せましょう。

 

 

各地の市区町村役場での不動産の調査

所有不動産が位置する市区町村には、名寄帳(資産明細)や固定資産評価証明書が保管されています。

 

 

2.預貯金の調査方法

預貯金の調査方法

預貯金の調査は不動産と異なり、基本的には自宅と金融機関だけを探せばよいですが、全く予想もつかないような金融機関の支店に預金口座が存在していることもありますので、ご注意ください。

 

 

被相続人のご自宅での預貯金の調査

ご自宅では預貯金の通帳やキャッシュカードを探しましょう。

金融機関からの郵便物、記念品から、口座開設の痕跡を探します。

 

 

金融機関から残高証明書を入手する

金融機関から残高証明書を取り寄せることは、財産の調査に有効です。

預貯金の他に、その金融機関で扱いのある金融商品が存在する場合があるからです。

 

 

3.株式・公社債・投資信託の調査方法

株式・公社債・投資信託の調査方法

株式・公社債・投資信託は、預貯金と同様、ご自宅や金融機関を調査します。自宅で保有形跡を探し出し、金融機関へ照会します。

 

 

4.借金の調査方法

借金の調査方法

財産に借金が含まれていることを調べるには、契約書を探す他に、郵便物を調べることも有効です。郵便物に借金の催促状等の書類が含まれている可能性があるからです。

 

また、未納付となっている税金がある可能性もあるため、地域の税務署に滞納している税金の有無を確認することも重要です。

 

〈ステップ2〉相続放棄するかどうかを決める

相続放棄を決断する

相続財産の調査結果に応じて、相続放棄をするかどうかを決定します。

 

借金が多額で、プラスの財産を充てても返済できないことが明らかな場合には、通常は相続放棄が選択されます。一方、そうでない場合には、他の相続の方法が選択されることもあります。

 

 

3種類の相続方法

単純承認と限定承認と相続放棄の3つの相続の方法から選択する

相続の方法には、相続放棄を含めて、次の3つの方法があります。

  • 単純承認
  • 限定承認
  • 相続放棄

ここでは、相続放棄以外の2つの相続方法、単純承認と限定承認を説明していきます。

 

単純承認とは

単純承認とは、被相続人の権利義務を包括的に承継する方法である

単純承認とは、相続人の相続財産をそっくりそのまま引き継ぐ方法です。

 

単純承認を選択すると、相続人は被相続人の借金も相続するため、相続財産の中に含まれる借金などのマイナスの財産が、預金や不動産といったプラスの財産よりも多い場合には通常選択されません。

第九百二十条
相続人は、単純承認をしたときは、無限に被相続人の権利義務を承継する。

 

限定承認とは

限定承認とは

限定承認とは、被相続人の相続財産のうち、プラスの財産からマイナスの財産を差し引いた残りの部分を、相続人が引き継ぐ方法です。限定承認は、相続人全員の同意が必要である等の理由から、実務上、あまり使われない方法です。

第九百二十二条
相続人は、相続によって得た財産の限度においてのみ被相続人の債務及び遺贈を弁済すべきことを留保して、相続の承認をすることができる。

 

〈ステップ3〉管轄の裁判所を調べる

管轄の家庭裁判所を探す

相続放棄をするには、その旨を家庭裁判所に申述しなければなりません。そのため、相続放棄の選択を決断したら、次は管轄の裁判所がどこかを調べましょう。

 

申述先となる家庭裁判所は、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所です。以下のリンクから家庭裁判所を検索ができますから、調べてみましょう。

 

申述先の家庭裁判所を調べる

第九百三十八条
相続の放棄をしようとする者は、その旨を家庭裁判所に申述しなければならない。

 

〈ステップ4〉必要な書類を集める

相続放棄に必要な書類

管轄の家庭裁判所を調べたら、次は必要書類の収集です。

 

この作業は、非常に骨の折れる作業ですから、後回しにせず、手早く集めてしまいましょう。収集に時間を割けない方は、専門家に依頼してしまってもよいかもしれません。それでは、見ていきましょう。

 

相続放棄に必要な書類

相続放棄に必要な書類は、申述人が誰かによって異なります。

以下では、申述人ごとに必要となる書類を挙げています。

 

【共通して必要な書類】

  • 相続放棄の申述書
  • 被相続人の住民票除票または戸籍附票
  • 申述人の戸籍謄本

 

〈パターン1〉申述人が配偶者の場合

  • 被相続人の死亡の記載のある戸籍謄本

 

〈パターン2〉申述人が子または孫の場合

  • 被相続人の死亡の記載のある戸籍謄本
  • 被代襲者(配偶者または子)の死亡記載のある戸籍謄本

 

〈パターン3〉申述人が被相続人の親または祖父母の場合

  • 被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍謄本
  • 配偶者(または子)の出生時から死亡時までのすべての戸籍謄本
  • 被相続人の親(父・母)の死亡記載のある戸籍謄本

 

〈パターン4〉申述人が兄弟姉妹または甥・姪の場合

  • 被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍謄本
  • 配偶者(または子)の出生時から死亡時までのすべての戸籍謄本
  • 被相続人の親(父・母)の死亡記載のある戸籍謄本
  • 兄弟姉妹の死亡の記載のある戸籍謄本(死亡している場合)

 

 

〈ステップ5〉申述書に必要事項を記入・提出する

相続放棄の申述書の書き方

手続きに必要な書類を揃えたら、次はいよいよ申述する書類を準備します。

 

申述書に必要事項を記入する

相続放棄の申述書・記入例は、下記の裁判所HPよりダウンロードできます。

 

書類を提出する

家庭裁判所への書類の提出方法には、次の2つの方法があります。

  1. 家庭裁判所へ直接提出する方法
  2. 家庭裁判所へ郵送する方法

 

1.家庭裁判所へ直接提出する方法

家庭裁判所へ相続放棄の申述書を直接提出する方法

最も確実で安全な方法は、申述人自らが家庭裁判所へ赴き、提出する方法です。紛失のリスクも低く、家庭裁判所の担当者に直接質問することができるので、提出書類に不備があった場合にも迅速に対応することができます。

 

2.家庭裁判所へ郵送する方法

相続放棄の申述書を家庭裁判所へ郵送する方法

家庭裁判所に直接提出できない場合は、郵送で提出することもできます。もっとも、郵送する場合は紛失のリスクもありますし、書類に不備がある場合には迅速に対応できない可能性もありますから、注意が必要です。

 

なお、郵送する場合には紛失のリスクに備えて、一般書留郵便等を利用するのが良いでしょう。

 

〈ステップ6〉照会書を入手する

照会書

家庭裁判所に申述書とその他の必要書類を提出すると、家庭裁判所から照会書がご自宅へ郵送されます。通常、申述書の提出から数日以内に届きます。

 

照会書とは、申述人の真意を確認するための書面で、いくつかの質問が記載されています。

 

この質問に回答し、家庭裁判所へ返送してください。ただし、返送期限が指定されるのが通常ですから、早めに返送するようにしましょう。

 

 

〈ステップ7〉相続放棄申述受理通知書を入手する

相続放棄申述受理通知書

家庭裁判所に照会書を返送して数日ほどで、ご自宅に相続放棄申述受理通知書が郵送されます。この相続放棄申述受理証明書を入手すると、相続放棄の手続きは完了です。

 

 

〈ステップ8〉必要な場合には、相続放棄申述受理証明書を入手する

相続放棄申述受理証明書

相続放棄申述受理通知書を入手すると、相続放棄の手続きはいったん終了ですが、相続放棄申述受理通知書は「相続放棄をしたことを証明する書類」ではありません。

 

そのため、相続登記等の手続きで、相続放棄したことを証明する書類を求められた場合には「相続放棄申述受理証明書」が必要になります。

 

この相続放棄申述受理証明書は、相続放棄をしたことを証明する書類ですが、自動的に発行されるわけではなく、こちらから請求しないと発行してもらえません。

 

 

相続放棄申述受理証明書の入手方法

相続放棄申述受理証明書は、相続放棄の申述をした家庭裁判所で申請することにより発行されます。

申請には収入印紙150円が必要となります。

 

 

相続放棄時に守るべき3つのルール

相続放棄時に守るべき3つのルール

最後に、相続放棄の手続き全体を通じて、守らなければならない3つのルールを紹介していきます。どのルールも非常に重要なものばかりですから、しっかりと守った上で手続きを進めるようにしましょう。

 

 

〈ルール1〉相続放棄の期限は3か月

相続放棄の期限は、相続人が自己の為に相続が開始したことを知ってから3か月間である

相続放棄の手続きは、相続人が自己のために相続があったことを知った日から3か月以内に行わなければなりません。この3ヶ月間を熟慮期間といいます。

この熟慮期間を過ぎてしまうと、相続放棄ができなくなってしまいますので注意が必要です。

 

なお、相続財産の調査に時間がかかる等の特別な理由がある場合には、家庭裁判所に申し立てることで、熟慮期間を伸長することができます。

第九百十五条
相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。ただし、この期間は、利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所において伸長することができる。

 

【関連記事】相続放棄を期限内に行うために知っておきたい5つのポイント~やさしい相続マニュアル~

 

 

〈ルール2〉遺産は処分してはいけない

遺産を処分すると相続放棄ができなくなる

相続放棄を選択したら、相続財産を処分してはいけません。もしも、相続財産を処分してしまうと、単純承認したものとみなされ、相続放棄ができなくなってしまいます。

 

なお、どういった行為が「処分」に該当するかについては事案によって異なりますから、ご不安な方は専門家にご相談されるのがよいでしょう。

第九百二十一条
次に掲げる場合には、相続人は、単純承認をしたものとみなす。

相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき。ただし、保存行為及び第六百二条に定める期間を超えない賃貸をすることは、この限りでない。

 

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〈ルール3〉相続放棄は取り消せない

相続放棄は取り消すことができない

相続放棄の手続きを行うと、後戻りはできません。相続放棄は取り消せないのです。そのため、相続放棄の選択は慎重に行う必要があります。

第九百十九条
相続の承認及び放棄は、第九百十五条第一項の期間内でも、撤回することができない。

 

【関連記事】相続放棄時に注意すべき6つのポイント~やさしい相続の基礎知識~

 

 

この記事のまとめ

専門家の見解

いかがでしたか?相続放棄の手続きは、相続財産の調査から必要書類の収集、家庭裁判所への申述、その後の対応に至るまで、非常に長い道のりです。

 

そして、これらの手続きは3ヶ月以内に行わなければなりません。相続放棄は時間との戦いです。

 

「手続きに時間がとれない」

「自分でやるのは不安だ」

 

などでお悩みの方は、弁護士や行政書士などの専門家に依頼するのがよいでしょう。きっと力になってくれるはずです。

 

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執筆者: やさしい相続編集部