相続放棄は意外に難しい

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相続放棄については、特集記事「相続放棄の手続きと必要書類のすべて」で詳細な解説をしました。相続放棄には、相続財産の範囲(財産のプラス部分とマイナス部分の評価)、放棄の期限などの条件や手続きの問題など様々なポイントがあり、誰もが一度は経験することになる法律的判断の中でもなかなか難しい分野です。

 

今回は相続放棄の問題の中でも、よく質問される問題に焦点を絞って解説していきます。

 

 

相続放棄でよくある7つの質問

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〈質問1〉被相続人が亡くなってから3か月以上が経って借金の存在が発覚した場合、相続放棄はできるのか?

熟慮期間中に大きな債務もなく、ほっと安心して被相続人の財産を相続したら、後日多額の借金が見つかってしまった!という場合のお話です。

 

 

法律上、相続の放棄ができる熟慮期間は相続の開始を知ってから3か月間です。そして、法定された3か月の熟慮期間だけでは被相続人の財産を調査しきれない場合などに、さらなる調査をするために熟慮期間を延長することはできます。ですが、この延長期間も限りがあります。その期間を過ぎて、大きな債務が発見された場合には相続人は「やっぱり相続放棄をしたい」といって相続放棄をすることはできるのでしょうか?

 

 

実はこの場合、法律には明確に書かれていませんが、相続放棄ができる場合があります。具体的には、①大きな(負の)相続財産が通常起算される熟慮期間に見つからなかったとこにつき相当な理由がある場合には、②相続人がその大きな(負の)相続財産を発見した時から再度3か月間の熟慮期間がスタートします。

 

 

この再スタートした熟慮期間のうちに相続放棄をすればよいわけです。ですので、相続放棄をしたくても熟慮期間が過ぎてしまってできない!とあきらめてしまうのはまだ早いです。見つかった負の相続財産の内容、見つかった状況をきちんと記録しましょう。

 

 

ただし、この負の遺産が具体的にはどのくらいあれば熟慮期間が再度スタートするかは専門的な判断を要する事項です。100%熟慮期間が再スタートするとは限らないので、その点にも注意が必要です。熟慮期間が過ぎてしまったと思っても、借金が見つかってからすぐに専門家に相談しましょう。

 

 

 

〈質問2〉相続財産(遺産)にどこまで触っていいのか?

遺産の処分をしてしまうと、相続放棄ができなくなってしまうということは聞いたことがあるけれど、何が法律上の処分にあたるのかわからない・・・との質問です。

 

 

まず、話を整理すると、相続財産の処分をすると法定単純承認という規定に自動的に該当し、相続を承認したことになります。法定単純承認とは、相続財産にかかわる利害関係人(債権者など)の信頼を守るため、一定の行為について相続を承認したとみなし、相続人に相続財産を一括して承継させるルールです。それゆえ、法定単純承認に該当すると、以降相続人による限定承認や相続放棄といった行為ができなくなります。

 

 

法定単純承認は、大きく分けて以下の3つの場合に該当します。

①相続人が相続財産の全部または一部を処分した場合

②熟慮期間を経過した場合

③限定承認または相続放棄後、相続財産を隠匿や消費したり、わざと相続財産目録に記載しなかった場合に効力が生じます。

 

 

②の熟慮期間の経過については特集記事「相続放棄の手続きと必要書類のすべて」の 「相続放棄時に注意すべき4つのポイント」 の項目で説明しました。熟慮期間内に限定承認か相続放棄をしなければならないルールになっています。

 

 

③については、相続人が限定承認や相続放棄といった責任回避をしたのに、相続財産にかかる債権者の邪魔をするような行為です。ですから、そのような悪い行為に対する制裁としてプラスの財産もマイナスの財産も一括して相続させるという効果を生じさせるのも道理が通ります。

 

 

ところが、①の「相続財産全部または一部を処分する行為」とは、どのような事情があっても相続財産に手をつけたらいけないのか、故人の遺産の中からお墓や葬式代も払えないのか、など相続財産の使い方としてまともな行為も含んでいそうで不安ですよね。

 

 

亡くなった方の相続財産の中に借金などのマイナスの財産がある場合に、相続人が勝手に相続財産を使って支払いをすると、単純承認したことになってしまうので、注意が必要です。一方で、裁判例の中には「被相続人のために、身分相応の葬儀や墓石、供養のために費用を支出しても単純承認には当たらない」とするものがあります。また、被相続人の身の回りの少額の金品(被相続人の財布に入っていた2万円程度の金銭等)の取得や携帯電話・借家の解約、価値のほとんどない中古車の処分などの場合も単純承認には当たらないと考えられています。

関連記事:遺産から葬儀費用を支払うと、相続放棄できない?~やさしい相続の基礎知識~

 

意外なことに、単純承認についての明確な基準は裁判所によってもいまだに示されていません。相続開始にあたって、プラスの相続財産が大きいと分かっているような場合でもない限り、相続財産を管理する場合には専門家の意見を聞いてみるのが賢明かもしれません。

 

 

〈質問4〉相続開始前に相続放棄できるの?

自分の親の財産について相続が始まりそうだけど、相続財産が負債ばっかりだからあらかじめ相続放棄をしておきたい・・・3か月の熟慮期間なんて相続が始まったらドタバタであっという間に過ぎそうだし・・・。

 

 

こんなお悩みを持っている方は多いと思います。では、実際に被相続人の生前から相続放棄をすることはできるのでしょうか?

 

 

答えは、できません。

 

 

相続放棄は相続が開始してから、すなわち被相続人の方が亡くなられてからできる手続きです。その理由は、被相続人により相続人の予めの相続放棄をさせる危険を防ぐ必要があることや、相続放棄は相続が開始されて相続財産の範囲が明らかになってからすべきものだから、というところにあるようです。

 

 

確かに熟慮期間が3か月と聞くと、短いと感じるかもしれません。ですが、この3か月は相続人が「相続の開始を知って」から始まります。相続人が海外にいて、被相続人の死を帰国してから知ったなどという場合には、帰国後被相続人の死を知ってから3か月ですので焦る必要はありません。また、相続財産の調査に時間がかかる場合には熟慮期間の延長を申述することもできるので、こうした手続きをうまく利用して適切な判断をするようにしましょう。

 

 

〈質問5〉他の相続人に「遺産は要らない」と伝えるだけで相続放棄は完了?

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相続放棄はどのような手続きが必要なのでしょうか。他の相続人に相続放棄したいと言えば済むのでしょうか。

 

 

答えは、NOです。

相続放棄には、必要書類をそろえて家庭裁判所へ相続放棄の申述に行かねばなりません(郵送でも可能です)。

 

相続とは被相続人の財産を一括して引き受ける制度です。そして相続により財産を一括して引き受けることが原則のルールである以上、日本においては相続をしないとの意思表示である相続放棄は決められた手続きをきちんと経なければならないのです。

必要な書類は「相続放棄の手続きと必要書類のすべて」の 「相続放棄に必要な手続き<相続放棄に必要な書類を集めよう>」でまとめてありますので、参照してください。

 

 

 

〈質問6〉相続放棄したことを他の相続人に伝える必要はあるの?

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相続放棄の手続きは他の相続人に関係なく一人でできます。相続放棄に他の相続人やその他の利害関係人の同意は不要です。ところが、相続放棄をしてもその旨を他の相続人に伝えなかったらどうなるでしょう。相続放棄によって相続分が増える相続人や、新たに相続人となる人が出てきます。そうすると、放棄したはずの相続分が宙ぶらりの状態で、誰もその財産をどうしていいのかわからなくなってしまいます。

 

 

また、新たな相続人がいる場合において、遺産分割の手続きが統一的にできなくなるという不都合も生じますし、新たに相続人となる人が相続放棄をするかどうかといった判断にも遅れが生じます。新たに相続人となった人にとっては、相続放棄によって自分が相続人になったことを知った時から熟慮期間が進行しますから、知らないうちに熟慮期間が過ぎたなどということはありませんが、相続財産にかかる債権者との関係でも早期の相続関係の終結が望ましいです。

 

 

ですので、相続放棄をされた方は、法律上の義務は規定されていなくとも、相続放棄をした旨を他の相続人に伝えて、相続手続きを円滑にできるよう支えてあげましょう。

 

 

 

〈質問7〉相続放棄をしたら生命保険金は受け取れない?

相続放棄したら、生命保険の保険金は受け取れない?

たとえば、借金のある人(被相続人)が相続人を生命保険金の受取人にしている状況で亡くなった場合を考えましょう。その受取人が借金の相続を避けるために相続放棄をしたら、その生命保険金も受け取れなくなるのでしょうか?

 

 

相続は、被相続人に属した財産を承継する手続きです。相続放棄をしたら相続人は相続財産を取得することができなくなります。しかし、被相続人に属しない財産権を相続人が直接取得する場合は話がかわってきます。生命保険金の受取人が相続人の場合、被相続人の死亡により生命保険金の請求権はその受取人に直接帰属します。ですので、この場合には相続放棄をしても生命保険金の受け取りをすることができます

 

 

一方で、生命保険金の受取人が亡くなった人自身(被相続人)になっていた場合、その生命保険金請求権は一旦被相続人に帰属し、その後相続人に相続される相続財産となります。ですので、この場合には相続放棄をすると生命保険金の受け取りをすることができなくなります。被相続人が生命保険を掛けていた場合には、契約内容をよく確認しましょう。

 

 

 

〈質問8〉相続放棄をしたら遺族年金はもらえない?

相続放棄したら遺族年金はもらえない?

多額の借金のある被相続人が年金に加入しており、その配偶者遺族年金がもらえるという場合、相続放棄をしたらその遺族年金ももらえなくなるのでしょうか?

 

 

これも、前項目「相続放棄をしたら生命保険金の受取ができない?」で解説したように、遺族年金が被相続人に帰属する財産なのか、相続人に直接帰属する財産なのかによります。そして遺族年金というのは被保険者の死亡により、被保険者の配偶者といった一定の関係を有する者が法律の規定により取得できる権利です。ですので、相続放棄をしたとしても、遺族年金は相続人に直接帰属する権利なので給付を受けることができます

 

 

この記事のまとめ

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相続放棄にかかる問題は様々です。よその家庭に気軽に聞ける内容でもないですし、各家庭ごとに相続に関する問題の所在が異なる以上、安易な判断で大きな失敗をしでかすこともあります。

 

特に、限定承認や相続放棄の手続きを熟慮期間3か月内に行わなければならないという点や、不用意に相続財産の処分を行ってしまうと単純承認されたとみなされ、放棄しようとしていたマイナスの相続財産まで相続しなければならないことになります。

 

相続は、そうした初動対応が非常に重要な分野になってきますので、相続が開始される際には相続放棄の可能性も踏まえて、十分注意しましょう。

 

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執筆者: やさしい相続編集部