意外と多い「行方不明の相続人」

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例えば、父が急に亡くなって、葬儀や相続手続をしなければならなくなったところ、兄弟の一人が行方不明で連絡も取れない…というケースを考えてみましょう。

 

家族が何人もいれば、そのうち一人が音信不通であっても決しておかしくはありません。したがってこのようなケースもままあるのです。警察庁の統計によれば、平成27年中における行方不明者の数は82,035人にのぼり、近年通してみても8万人台前半で推移しています。しかも、これは“届出があった”行方不明者の数であり、届出がなされていない音信不通の者も含めれば、その数は倍以上にのぼることが予想されます。このように、行方不明者の数は意外と多いのです。そこで、行方不明者が相続人となった場合に、相続手続を進めていく上で問題が生じるケースが出てきます。

 

 

相続人が行方不明だと相続が終わらない!

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相続人が行方不明である場合、そのままでは相続手続をすすめることができず、いつまでも終わらないという状態に陥ってしまいます。

 

 

相続でもっとも大切なのは遺産の分割

被相続人が死亡すると相続が開始しますが、この相続により、被相続人の遺産は相続人が受け継ぐことになります(遺言がある場合を除く)。

しかし、相続人が受け継ぐといっても、何もしなければ遺産は相続人“全員の共有状態”になることになります。ひとまず相続人全員で遺産を共有するという状態です。そのため、「車は長男の物」、「家は母の物」というように、相続人が遺産を単独で所有するという状態に直ちになるわけではありません。遺産を各々の単独所有にするためには、「遺産分割」という手続をしなければいけません。

 

 

遺産の分割には相続人全員の合意が必要

 

遺産分割とは、文字通り「遺産をみんなで分ける」という手続のことをいいます。遺産分割をすることによって、やっと遺産がそれぞれの単独所有になるのです。この遺産分割をしなければ、遺産はいつまでたっても相続人全員の共有状態のままということになります。

 

遺産分割の方法は、極めてシンプルに「話合い」によってなされます。みんなで話し合って、どの遺産を誰がもらうかということを決めるのです。この話合いのことを「遺産分割協議」といいます。

 

この遺産分割協議の一番重要なポイントは、“全員の合意がなければ成立しない”ということです。全員一致でないと遺産分割協議は成立しません。したがって、分割の仕方について、相続人の一人でも反対すると、遺産分割協議は有効に成立せず、無効となります。有効に成立しないと、それぞれの相続人は遺産を自分だけの物にすることができないのです(だから、遺産分割協議は難しいのです)。

 

そして、遺産分割協議は“全員の合意がなければ成立しない”ため、協議には相続人全員が参加しなければいけません。1人でも欠けていれば遺産分割協議は無効です。そのため、誰か気に食わない相続人を排除してこっそり遺産分割協議をしてしまうということは当然できませんし、父親に隠し子がいたような場合は隠し子も相続人たり得るため、隠し子を探し出して一緒に協議をしなければ遺産分割協議を成立させることはできないのです。相続人が行方不明だと相続手続が終わらないというのも、このことが理由なのです。例え行方不明であろうと、音信不通であろうと、なんとか探し出して遺産分割協議に参加させなければならないのです。

 

 

相続が終わらないと、遺産の処分ができない!

 

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遺産分割ができないとなると、遺産は相続人の共有状態のまま…ということになります。

共有状態だと何が問題なのでしょうか?

最大の問題は、遺産の処分が極めて困難になってしまうことです。

 

例えば、家を相続したとしましょう。この家を欲しがる相続人は誰もおらず、放っておくと固定資産税や維持費などお金がかかるだけなので、売却処分したいと考えたとします。民法の規定上、共有状態にある財産を処分するためには、共有者全員の同意が必要です。そのため、この家を売るためには、共有者全員の同意が必要なのです。

 

ところが、共有者である相続人が行方不明であると、その者からの同意を得ることができません。そのため、この相続人一人の同意が得られないために、家を売却することが不可能になってしまうのです。家自体を売るという手段の他に、それぞれの共有者が自分の「共有持分」を売却するという手段もあります。共有持分とは、共有物に対する自分の持分割合のことを言います(例えば、1つの車を2人で半分ずつの割合で共有しているとすると、共有者はそれぞれ1/2ずつの共有持分を有するということになります)。

 

この「共有持分」の売却であれば、全員の同意は必要なく、それぞれが勝手にすることができるのですが、共有持分を買い受けようとする者はなかなかいないというのが現実です(知っている人と共有するならともかく、そうでない人と財産を共有するというリスクを好んで負うものはいません)。

 

このように、遺産分割を終えなければ遺産の共有状態を解消できないために、遺産の処分ができなくなってしまうのです。

 

 

ここまでのまとめ

・相続が開始すると、ひとまず遺産は相続人全員の共有状態になる。

・共有状態を解消するためには遺産分割協議を経なければならない。

・遺産分割協議は相続人全員の合意が必要であるため、行方不明の相続人がいるといつまでたっても遺産分割をすることができない。

・遺産分割協議で共有状態を解消しないと遺産の処分ができない。

 

 

 

行方不明の相続人がいる場合の対処法

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〈対処法その1〉まずは本人を探してみる!

 

戸籍を取り寄せて探す

行方不明であるなら、あたりまえですが、まずは本人を探してみるしかありません。

 

探すための方法としてまずは行方不明者の戸籍をとることが考えられます。なぜなら、戸籍の附票というものに、行方不明者の住民票の変遷、すなわち住所の変遷がすべて記録されているからです。戸籍は行方不明者の本籍地の役場でとることができます。まずは住所を確認し、一番最新の住所を手掛かりに探すことになるでしょう。

 

 

SNSを利用して探す

 

インターネットが発達した現代においては、戸籍をとるという古典的な方法の他にも、SNS(Facebook、Twitter等)を利用して居所を探すという方法も採り得ます。まずは、行方不明者本人が利用してそうなSNSで、本人のアカウントを特定するという方法が考えられます。本人のアカウントを見つけることができれば、そこに記載されている情報から居所を割り出したり、本人に直接連絡できるかもしれませんし、そこで繋がっている人を通して連絡を取ることも可能でしょう。他にも、SNSを通じて行方不明者の捜索を依頼することも可能です。「捜索依頼」や「拡散希望」というワードを使えば、日本全国、全世界でそれを見た人が情報を提供してくれるかもしれません。国民のほとんどがインターネットを利用しているという現代においては、非常に心強い手段です。しかし、本人が意図的に隠居・潜伏しているような状態であれば、このような手段をもってしても居所を発見できないということもありえます。

 

 

〈対処法その2〉不在者財産管理人を選任する

不在者財産管理人とは?

 

行方不明者の居所がつかめない場合、連絡がどうしても取れないという場合、もはや遺産分割協議は永遠に不可能なのかというと、そうではありません。このような場合は、「不在者財産管理人」を家庭裁判所に選任してもらうことによって遺産分割協議が可能になります。

 

「不在者財産管理人」とは、不在者(行方不明者)に代わって財産の管理を行う者をいいます。不在者財産管理人は、家庭裁判所によって選任され、任務を遂行することになります。不在者財産管理人は、不在者の財産の管理を任務とするため、本人の財産を管理することができますし、本人に代わって遺産分割協議に参加することもできます、

 

そのため、不在者財産管理人を選任してもらえば、この者に遺産分割協議に参加してもらい、有効に遺産分割協議を成立させることができるようになるのです。

 

 

不在者財産管理人の選任の手順

不在者財産管理人を選任してもらうためには、不在者の従来の住所地又は居所地の家庭裁判所に選任の申立てをする必要があります。この申立てをすれば、家庭裁判所が審査をした上、適任であると考える者を不在者財産管理人に選任してくれるということになります。

 

どういう人が不在者財産管理人になるのかというと、申し立てた人が推薦した親族等がそのまま選任されることが多いです。ただし、利害関係人は不在者財産管理人になることができません。不在者の財産を管理できる権限を不当に濫用して本人を食い物にしてしまうおそれがあるからです(例えば、わざと行方不明者に不利な内容の遺産分割協議を成立させるなど)。適任の者がいない場合は、弁護士等の専門家が選任されます。

 

なお、不在者財産管理人を選任してもらうためには、行方不明者が行方不明になってから1年以上経過している必要があるため、注意しましょう。3日間家に帰ってこないという程度では当然選任してもらえません。

 

 

不在者財産管理人の選任に必要な書類

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申立てに必要な書類は、以下の通りです。

・家事審判申立書(裁判所のウェブサイト(http://www.courts.go.jp/vcms_lf/21m-betsu1.pdf)に書式があります)

・不在者の戸籍謄本(全部事項証明書)

・不在者の戸籍附票

・不在者財産管理人候補者の住民票又は戸籍附票

・不在の事実を証明する資料

・不在者の財産に関する資料(不動産登記事項証明書,預貯金及び有価証券の残高が分かる書類(通帳写し,残高証明書等)等)

*利害関係人からの申立ての場合は以下の書類も必要になります

利害関係を証する資料(戸籍謄本(全部事項証明書),賃貸借契約書写し,金銭消費貸借契約書写し等)

 

 

不在者財産管理人選任申立書の記載例

裁判所のウェブサイト(http://www.courts.go.jp/vcms_lf/280603huzaikan.pdf)に記載例が載っておりますのでご参照ください。

 

 

不在者財産管理人の選任に必要な費用

申立て自体に必要な費用は、収入印紙800円分および連絡用の郵便切手のみです。しかし、不在者財産管理人が職務を遂行した場合、報酬(裁判所が決定する額。月1~5万円が相場)が不在者の財産から支払われることになります。

 

 

ここまでのまとめ

・まずは戸籍の取得やSNSの利用などで探してみる。

・それでもなお見つからないようであれば、不在者財産管理人を選任してもらう。

・不在者財産管理人に遺産分割協議に参加してもらうことによって、有効に遺産分割協議を成立させることができる。

 

 

 

最後の手段「失踪宣告」

 

失踪宣告とは?

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失踪宣告がなされると死亡扱いとなる

相続人が行方不明であるために遺産分割協議ができないという状況を打破する方法としては、もう一つ失踪宣告という手段もあります。失踪宣告は家庭裁判所に申立てをし、裁判所が認めてくれればなされることになります。

 

失踪宣告がなされると、行方不明者は法律上“死亡したもの”とみなされます。通常の“死亡”と全く同様の法律効果が生じるのです。例えば行方不明者についても相続が生じることになります。

 

行方不明者が死亡したとみなされれば、当然その者が遺産分割協議に参加する必要はなくなる(死亡した人は遺産分割協議に参加できるはずがありません)ため、その人抜きで遺産分割協議を成立させることができるようになります。もっとも、相続人が死亡した場合であって、かつその者に子がいたような場合は、その者が代わりに相続人になる(これを「代襲相続」といいます)ため、この者(代襲相続人)を必ず遺産分割協議に参加させなければならなくなります。注意しましょう。

 

 

失踪宣告の要件

失踪宣告が認められるためには、次の①か②のいずれかに該当する必要があります。

 

①普通失踪に該当する場合

理由を問わず、ある人の生死が7年間分からないという場合、普通失踪が認められます。

普通失踪が認められると、生死不明になってから7年が経過した時点で“死亡した”とみなされます。

 

②特別失踪に該当する場合

火災や地震等に遭遇し、そのような危難が去ってから1年以上が経過しても生死が明らかでない場合、特別失踪が認められます。生死不明の期間が短くても認められる代わりに、生死不明となった理由が「火災や地震等」に限定されています。火災、地震の他にも暴風・山崩れ・雪崩・洪水・戦争など、遭遇すると人が死亡する蓋然性の高い事変もこれにあたり得ると解されます。特別失踪が認められると、危難が去った時点で“死亡した”と見なされます。

 

 

失踪宣告の手順

家庭裁判所に失踪宣告をしてもらうためには、不在者の最後の住所地または居住地を管轄する家庭裁判所に失踪宣告の申立てをしなければいけません。申立てをすると、家庭裁判所は必要な調査(本当に行方不明なのかどうかのチェック)をした上で、公示催告という公告手続をします。官報で公告することで、「本当に失踪したのですかー?」ということを世に問いかけ、最後のチェックをするのです。

 

公示催告がなされる期間は、普通失踪であれば6カ月以上、特別失踪であれば2カ月以上です。これらの手続を経て、なお行方不明者が現れないのであれば、ついに失踪宣告がなされることになります。この一連の手続きだけでも約1年かかり、さらに普通失踪であれば7年以上生死不明であることが要求されるため、非常に長い時間がかかる手続です。

 

 

ここまでのまとめ

・相続人が行方不明である場合、失踪宣告という手段を用いることもできる。

・失踪宣告がなされると、行方不明者は“死亡”したことになる。

・長い時間を要する手続である。

 

 

 

この記事のまとめ

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いかがでしたでしょうか。お付き合いいただきありがとうございます。

 

最後に、この記事の内容をまとめると、以下の通りになります。

・相続が開始しても、遺産分割をしなければ、遺産は相続人全員の共有状態のままであり、色々と不便!

 

・遺産分割協議は相続人全員でしなければならないため、行方不明の相続人がいると遺産分割がいつまでたってもできない。

 

・そこで、この状況を解決するための手段の1つが、不在者財産管理人の選任。不在者財産管理人を選任してもらえれば、この者が行方不明者に代わって遺産分割協議に参加してくれるので、有効に遺産分割協議を成立させることができる。

 

・もう一つの手段が失踪宣告。失踪宣告がなされると、行方不明者は死亡した者とみなされるため、この者を遺産分割協議に参加させる必要がなくなる(代襲相続がある場合は、代襲相続人を参加させなければならなくなる)。もっとも、失踪宣告が認められるためには時間がかかる。

執筆者: やさしい相続編集部