借金の存在が判明したり家業の都合があるなど、何らかの理由で相続財産を放棄したいという状況は存在します。このような場面で財産を放棄するためにはどういった手続きを踏めばよいのでしょうか?この記事では相続の際に財産を放棄するための2つの方法を解説します。

 

財産を放棄する2つの方法

財産を放棄する2つの方法

相続人が財産を放棄するには、遺産分割協議と相続放棄の2つの方法があります。

 

【財産を放棄する方法】

  • 遺産分割協議による放棄
  • 相続放棄による放棄

 

遺産分割協議による放棄とは?

財産を放棄する方法の1つ、遺産分割協議による放棄とはどのような方法でしょうか?ここでは遺産分割協議による放棄について、くわしく解説していきます。

 

そもそも遺産分割とは?

故人(被相続人)が亡くなり相続が始まると、相続人は被相続人が遺した財産に属する一切の権利義務を引き継ぎます。相続人が複数いる場合には、その財産は相続人全員の共有状態になります。

 

第八百九十六条
相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない。
第八百九十八条
相続人が数人あるときは、相続財産は、その共有に属する。

引用元:電子政府の総合窓口(相続の一般的効力)

 

しかし財産を共有状態のまま放っておくことはできません。財産が相続人全員の共有となっていると、たとえ相続人の1人がその財産を売却したいと思っても他の相続人が同意しない限り売却できませんし、自由に処分することもできないからです。

 

そこでこの財産を相続人で分け合い、それが誰のものかを決めるための手続きが必要になります。この手続きが遺産分割です。

 

第九百七条
共同相続人は、次条の規定により被相続人が遺言で禁じた場合を除き、いつでも、その協議で、遺産の分割をすることができる。

引用元:電子政府の総合窓口(遺産の分割の協議又は審判等)

 

遺言書に遺産の分け方についての記載があれば、その記載に従えば問題はありません。遺言書がない場合、または遺言書に遺産の分け方に関する記述がない場合には、相続人全員で遺産分割を行う必要があります。

 

遺産分割の具体的な方法

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遺産分割といっても複雑な手続きが必要なわけではありません。相続人全員で相続人をどのように分けるかを話し合えばよいのです。この話し合いを遺産分割協議といいますが、この遺産分割協議には相続人全員が参加しなければならず、1人でも相続人を欠く遺産分割協議は無効になってしまうので注意が必要です。

 

遺産の分け方に関する話し合いがまとまったら、その結果を書面にまとめて保管することが一般的です。ここで作成する書面を遺産分割協議書といいます。この遺産分割協議書を作成すれば遺産分割は完了となります。

 

遺産分割協議による放棄とは?

遺産分割協議では相続人全員の話し合いにより遺産の分け方が決められます。その分け方については法律上、「一切の事情を考慮して」と規定されているに過ぎず、特に制限があるわけではありません。相続人全員が納得するような分け方であれば、基本的にはどのように遺産を分けてもよいのです。

 

第九百六条
遺産の分割は、遺産に属する物又は権利の種類及び性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮してこれをする。

引用元:電子政府の総合窓口(遺産の分割の協議又は審判等)

 

どのように分けてもよいのなら「自分は財産を相続しない」という相続人がいたとしても問題はありません。遺産分割協議の中で相続人が「財産を相続しない」と選択することを遺産分割協議による放棄といいます。

 

遺産分割協議による放棄の具体的な方法

遺産分割協議による放棄といっても、とくに難しくことありません。相続人全員が参加した遺産分割協議の場で「私は遺産を相続しません」と宣言し、他の相続人に納得してもらえばよいのです。ただし話し合っただけでは証拠として残りませんから、記録するという意味でも前述の遺産分割協議書を作成するのがよいでしょう。

 

遺産分割協議による放棄をする際の注意点

相続放棄をする際の注意点

相続財産を引き継ぎたくないといっても、その理由は様々です。

 

  • 「親の面倒を看てくれた相続人にすべての遺産を相続させたいから」
  • 「相続人が営んでいた事業を、特定の相続人が引き継ぐから」
  • 「遺産が借金しかないから」

 

など、様々なパターンがあります。遺産が借金しかないために財産を放棄したいパターンの場合、遺産分割協議による放棄を使うのは要注意です。遺産分割協議による放棄を行ったとしても、借金の債権者が返済を請求してきたらその請求を拒めないためです。借金を相続しないために財産の放棄を行いたいのであれば、法的に定められた形で正式に「相続放棄」を選ぶことをおすすめします。

 

相続放棄による放棄とは?

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借金などのマイナスの財産が不動産や現金などのプラスの財産よりも多い場合、財産の放棄を検討するというのが一般的でしょう。この場合、借金を相続しないためには相続放棄という手続きが必要になります。

 

相続放棄とは?

相続が始まると、相続人は相続の方法を単純承認・限定承認・相続放棄の中から選択しなければなりません。

 

【3つの相続の方法】

  • 単純承認
  • 限定承認
  • 相続放棄

 

第九百十五条 本文
相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。

引用元:電子政府の総合窓口(相続の承認又は放棄をすべき期間)

 

このうちの1つが相続放棄です。相続放棄を行うと、その相続人は初めから相続人ではなかったものとみなされ、遺産を相続することはありません。

第九百三十九条
相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす。

引用元:電子政府の総合窓口(相続の放棄)

 

そしてこの相続放棄は遺産分割協議による相続放棄とは異なり、家庭裁判所の許可を得て行うものであるため、債権者に対して借金の返済を拒絶できます。

 

相続放棄を行うための手続き

相続放棄をするための手続き

始めにことわっておきますが、遺産分割協議による放棄とは異なり相続放棄の手続きは簡単なものではありません。また後述のように相続放棄の手続きを行える期間は限られていますから、不安な方は弁護士や行政書士といった専門家を利用することをおすすめします。

 

<手続きその1>財産の調査を行う

相続放棄の本格的な手続きを行う前に、まずは財産の内容を調査しましょう。その調査の結果、借金ばかりだと思っていた遺産の中に実は多額のプラスの財産が含まれていることもあります。その場合には、相続放棄をしなくてもよいかもしれませんので、既に調査を完了されたという方も、再び調査されるのがよいでしょう。

 

第九百十五条
2 相続人は、相続の承認又は放棄をする前に、相続財産の調査をすることができる。

引用元:電子政府の総合窓口(相続の承認又は放棄をすべき期間)

 

<手続きその2>必要な書類を集める

財産の内容を調査し、その結果として相続放棄をすると決めたら、次にやるべきは手続きに必要な書類を集めることです。相続放棄の手続きに必要な書類は、家庭裁判所に申述する本人が誰かによって異なりますので、ご注意ください。

 

どの場合でも共通して必要な書類

家庭裁判所に誰が相続放棄の申述を行う場合でも、次の3つの書類は必ず必要になります。

  • 相続放棄の申述書
  • 被相続人の住民票除票または戸籍附票
  • 申述人の戸籍謄本

 

なお相続放棄の申述書の用紙と記入例は、下記のリンクからダウンロードできます。相続放棄の申述書は、20歳以上と20歳未満で書類のフォーマットが異なります。

 

相続放棄の申述書/記入例

 

申述人別に必要な書類

〈ケースその1〉被相続人の配偶者が申述する場合

  • 被相続人の死亡の記載のある戸籍謄本

 

〈ケースその2〉被相続人の子または孫が申述する場合

  • 被相続人の死亡の記載のある戸籍謄本
  • 被代襲者(配偶者または子)の死亡記載のある戸籍謄本

 

〈ケースその3〉被相続人の親または祖父母が申述する場合

  • 被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍謄本
  • 配偶者(または子)の出生時から死亡時までのすべての戸籍謄本
  • 被相続人の親(父・母)の死亡記載のある戸籍謄本

 

〈ケースその4〉兄弟姉妹または甥・姪が申述する場合

  • 被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍謄本
  • 配偶者(または子)の出生時から死亡時までのすべての戸籍謄本
  • 被相続人の親(父・母)の死亡記載のある戸籍謄本
  • 兄弟姉妹の死亡の記載のある戸籍謄本(死亡している場合)

 

<手続きその3>管轄の裁判所を調べる

相続放棄を家庭裁判所に申述する

相続放棄の手続きは、管轄の裁判所に申述して行います。

 

第九百三十八条
相続の放棄をしようとする者は、その旨を家庭裁判所に申述しなければならない。

引用元:電子政府の総合窓口(相続の承認又は放棄をすべき期間)

 

この手続きを行う裁判所はどこの裁判所でもよいというわけではありません。被相続人の最後の住所地の家庭裁判所でなければ手続きを行うことができないのです。相続放棄の申述をしようとする人が遠方に住まわれていたとしても同じルールですから、ご注意ください。

 

なお、管轄の家庭裁判所は下記のリンクから調べることができますので、ぜひご活用ください。

管轄の家庭裁判所を調べる

http://www.courts.go.jp/saiban/kankatu/index.html

 

相続放棄の手続きのくわしい解説は「相続放棄の手続きの流れ・必要書類・費用まとめ」をご参照ください。

 

 

相続放棄を行う際の注意点

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相続放棄による財産の放棄を行うにあたっては、次の3つのポイントに注意する必要があります。

【相続放棄の注意点】

  • 相続放棄の手続きができるのは3か月間!
  • 遺産を処分すると相続放棄できない
  • 相続放棄は取り消せない

 

相続放棄の手続きができるのは3か月間!

相続放棄はいつでも自由に行えるわけではありません。その手続きが可能な期間は、相続人が自己のために相続が始まったことを知ったときから3か月間です。

 

第九百十五条
相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。ただし、この期間は、利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所において伸長することができる。

引用元:電子政府の総合窓口(相続の承認又は放棄をすべき期間)

 

この期間を過ぎてしまうと、相続放棄の手続きを行うことができなくなってしまうため注意が必要です。相続放棄の手続きの期間に関するくわしい解説は「要注意!相続放棄の手続きには期限がある-やさしい相続マニュアル」をご参照ください。

 

遺産を処分すると、相続放棄できない

相続放棄は遺産を相続しないための手続きです。よって遺産を好きなだけ使った後に不要な遺産(たとえば借金)だけを放棄することは許されません。そのため相続放棄する相続人は、遺産を処分してはいけないことになっています。もし遺産を処分してしまうと単純承認をしたものとみなされ、相続放棄できなくなってしまいますのでご注意ください。

 

第九百二十一条
次に掲げる場合には、相続人は、単純承認をしたものとみなす。
一 相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき。ただし、保存行為及び第六百二条に定める期間を超えない賃貸をすることは、この限りでない。

引用元:電子政府の総合窓口(法定単純承認)

 

相続放棄の遺産の処分については、「遺産から葬儀費用を支払うと、相続放棄できない?-やさしい相続マニュアル」をご参照ください。

 

相続放棄は取り消せない

相続放棄は、基本的には後になって取り消すことができません。

 

第九百十九条
相続の承認及び放棄は、第九百十五条第一項の期間内でも、撤回することができない。

引用元:電子政府の総合窓口(相続の承認及び放棄の撤回及び取消し)

 

そのため相続放棄の手続きをした後になって「相続放棄を取消したい!」と思ったとしても後の祭りです。取り消すことはできません。相続放棄をご検討される際には、よくよく考えた上で決めるようにしましょう。

相続放棄の取消に関するくわしい解説は「相続放棄を取消・撤回できる6つの条件と手続きとは?」をご参照ください。

 

 

財産を放棄する2つの方法の比較

相続財産を放棄する2つの方法

ここまで、遺産分割協議による放棄と相続放棄による放棄を説明してきましたが、ここでは、この2つの方法についてまとめていますので、どちらの方法が良いかご検討される際にはぜひご一読ください。

 

手続きの期間

遺産分割はいつでも行うことができる手続きですから、遺産分割協議による放棄はいつでも行うことができます。一方、相続放棄による放棄には厳格な期間制限があり、早めに行わなければなりません。

 

遺産(相続財産)の債権者に対する義務

遺産に借金が含まれている場合、遺産分割協議による放棄を行ったとしても、その相続人は借金の債権者に対して返済を拒むことができません。一方、相続放棄による放棄を行った相続人は、借金の返済を拒むことができます。

 

遺産に借金が含まれる場合には、この違いは大きなポイントになりますから、必ず確認するようにしましょう。

 

手続きの方法

遺産分割協議による放棄は、遺産分割協議の中で相続人全員と話し合うことで行えますから、比較的簡単な手続きで済みます。一方、相続放棄による放棄は、家庭裁判所への申述と家庭裁判所による受理が必要となりますから、その手続きは煩雑なものとなります。

 

取消の可否

遺産分割協議で出た結果は相続人全員の同意があれば取り消すことができます。一方、相続放棄は基本的に取り消すことができません。相続放棄をご検討の際には、この点によくよくご注意ください。

 

相続の際の財産放棄のまとめ

まとめ

相続の際の財産の放棄には、2つの方法があります。これら2つの方法の特徴を踏まえた上で手続きを行わないと不要な費用がかかってしまったり、本当に必要な手続きを制限期間内に行えないことになり、財産を放棄できない可能性すらあります。この記事が皆様の一助になれば幸いです。

 

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