企業のオーナーである創業社長や2代目、3代目といった後継者の大きな悩みの原因が事業承継です。中小企業やファミリービジネスでは、家族に跡継ぎがいない、適切な後継者候補が社内で育たないなどの問題がめずらしくありません。せっかく大きくした会社をしかるべく受け継いでくれるものがいない、代々続いた家業を自分の代で終わらせてしまう、はたまた相続争いの原因になってしまうといったものが代表的ですが、いずれにせよ回避できるのであればしたいというのが人情というものでしょう。

 

後継者が決まっているという場合でも、経営権や資産の円滑な移譲やそれにともなう株式の移動、資金調達、節税に取り組んで納税額を最小化するなど、数年がかりの計画的な対策が求められます。本記事では、そうした事業承継と相続について説明していきます。

そもそも事業承継って何だろう?

事業承継対策

事業承継とは文字通り、経営している会社を他人に譲り渡すことです。事業承継は誰に対してもすることができますが、この記事では、主として相続に起因する事業承継について解説していきます。

 

事業承継の実態 大多数の企業は相続で承継

日本の企業の大多数は中小企業です。なかでも、株主はオーナー社長やその家族・親族程度という「所有と経営が一体」の中小企業がほとんどです。「所有と経営が一体」とは、いわゆる一族で株式を所有しファミリー経営している「同族会社」のイメージです。

 

2016年版の中小企業白書によれば、2014年の中小企業数は、小規模事業者325万社、中規模企業56万社の合計381万社です。日本に存在する企業の約99.7%を中小企業が占めていることになります(大企業数は1万社程度)。

 

【中小企業の定義】

製造業:資本金3億円以下又は従業者数300人以下
卸売業:資本金1億円以下又は従業者数100人以下
小売業:資本金5千万円以下又は従業者数50人以下
サービス業:資本金5千万円以下又は従業者数100人以下

規模によるとはいえ、こうした企業のほとんどが潜在的な事業承継と相続の問題を抱えているといえます。

 

近年問題となっている事業承継

事業承継における後継者問題

こうしたファミリービジネス(個人事業を含む同族企業)は多くの場合、その家族や一族を収益面で支えているため、事業承継に関する相続問題が生じた場合には生計が立ち行かなくなる恐れがあります。

 

相続問題によって一族の人間関係が修復不可能な形でこじれてしまうことも少なくありません。

 

一族の経営争いで週刊誌のネタになってしまう企業の中には、日本を代表する有名企業もあるほどですから、「所有と経営が一体」の中小企業では、その問題はより深刻といえます。

 

 

事業承継の2つの側面

事業承継と2つの側面 株式の相続、経営権の承継

事業承継と聞いて思い浮かぶイメージはどんなものでしょうか?株式を承継することでしょうか。事業を承継する方が代表取締役社長になることでしょうか。実はこのどちらも、正解です。事業承継には大きく分けて株式の承継経営権の承継という、二つの側面があると言えます。

 

株式の承継

株式は会社の保有を表す。

株式会社は資本を集めるために株式を発行します。その株式を購入する(割当に応ずる)ことで会社に出資し株式を保有することで株主となります。株主として所有する株式の割合の分だけ、会社のオーナーだということがいえます。

 

つまり株式の保有割合に応じて会社を保有しているわけです。株式とは、会社の財産を株式の数だけ按分したものなので、相続対象の財産です。この株式を相続することが株式の承継です。

 

経営権の承継

経営の承継・代表取締役の地位は相続の対象ではない。

被相続人が事業を特定の相続人に託すと言い残して亡くなったら、その相続人は会社の代表取締役になるのでしょうか。世間的には、こうした跡目の指名といった形で事業を託された人が代表取締役に就任して事業を受け継ぐというケースもあるかと思います。

 

ただし法律的には、代表取締役などの地位というのは相続の対象ではありません。

 

取締役は株主総会という手続きにより会社からの委任を受けて就任するもので、その取締役の死亡によりその地位は終了します。では、経営権を受け継ぐにはどのような裏付けと手続きが必要でしょうか。

 

 

経営権などを受け継ぐ

経営権を受け継ぐ実態

このような同族会社における「経営権を受け継ぐ」、「代表取締役の地位を受け継ぐ」というのは、正確には株式を受け継ぎ、受け継いだご自身が株主総会を開き(実際に開くことは少なく、開かれたことにして)、自身で代表取締役に就任することによって経営権を取得しているのです。

 

そもそも、取締役に就任するためには株式を所有するオーナーの同意(決議)が必要ですので、裏付けとなる株式を自身で所有するなり、賛成を取り付けないことには経営権を引き継げません。

(議決権を行使できる株主の「議決権の過半数を有する株主が出席」し、出席した当該株主の「議決権の過半数」をもって行なう(会社法341条)

 

また被相続人から経営権を託されたとしても、必ずしもご自身で事業をする必要はありません。社内で献身的に勤続し、経営のイロハもわかるベテラン社員を社長に任命して経営を任せることもできるのです(所有と経営の分離)。相続にかかる事業承継で大きく問題となるのは、主にこの経営権の問題です。

 

 

「株式の承継」と「経営の承継」

従来は相続人に経営権を移すことが多い

従来はオーナー社長の息子など、被相続人に一番近い人に株式を相続させ、無条件に経営権もその相続人に移すというケースが多かったと思います。

 

そのように事業を承継することで、先代よりも事業を拡大し軌道に乗せる後継者も多くいますが、どうしても上手くいかない後継者もでてきます。

 

経営を承継し、上手くいかないのはなぜか

経営の勘は長年の経験により培われる

理由は様々ありますが、中でも創業から事業拡大まで成功したオーナー社長には商才があり、事業環境もマッチしていたというのが身も蓋もない事実ではないでしょうか。中小企業の場合は、組織力や仕組みで戦うというよりも、(カリスマや経営の勘などと言われるような)オーナー社長の個人的な気質・才覚や経営力に依存する割合が高いといえます。

 

企業の持続期間や廃業率などを鑑みれば、一般的に企業の寿命はそう長くはありません。勝ち残ったオーナー社長だけをモデルに成功要因を求めるのはバイアスがかかっていると考えるべきでしょう。つまり、成功した先代の真似をしてもうまくいかない可能性が高いということです。商才は子どもに遺伝するとは限りませんし、いうまでもなく事業環境は変化し続けます。

 

後継者がMBAを取得していたとしても、機能別に組織化された大企業はともかく、後継者として中小企業の経営に活かせるかどうかは別問題です。一朝一夕では培われない経営力をもった人材の不足は、多くのオーナー社長の後継者選びの悩みどころだと思います。そこで家族・親族以外からの経営者の招聘や、事業売却という選択肢が出てきます。

 

事業の継続と成功の再現性については、成功したオーナー社長自身がシビアに検討する必要があります。そうした認識があって初めて、事業承継対策の第一歩を踏み出せるといえます。

 

 

事業承継は、残られた人に幸せを願うため

事業承継は相続人に幸せになってほしい

事業承継は、最終的には相続人たちに幸せに生きてもらうためにどうするか、という問題です。「所有と経営が一体」の中小企業を、相続を契機に「所有と経営の分離」をはかることも相続人の幸せにつながるかもしれません。

 

また、株式すら第三者に譲渡し、相続人にはオーナー社長の後継となる道を完全に断つことも考えられます。今まで通り、他の人たちがやっている通りが幸せの形ではありません。ご自身でご自身とその相続人に合わせた幸せの形を模索する必要があるのです。

 

 

3つの事業承継対策

事業承継の方法は、各企業の抱える問題ごとに様々な方法があります。各企業で事業承継方法を検討する目的も本当に一つ一つ異なりますが、大別すれば3つに分けられます。

 

遺産相続争いの防止

相続間での争いは事業承継において避けたい

事業承継対策の1つめは、相続人間の遺産争いの防止です。相続人間での紛争は事業の継続および発展に対して絶対に避けなければならない問題です。

 

遺族間で争いがあれば、事業承継どころではなく、長期化した場合には、それこそ経営者の不在など、大きな影響が生じてしまいます。対外的にも、取引先や銀行、クライアントなど外部のステークホルダーに与える経営不安定化というマイナスの印象は大きく、事業価値を下げるものという認識が必要です。事業に関わる相続争いは避けなければなりません。

 

相続税・贈与税等の納税資金の確保

納税資金の確保は重要。

事業承継対策の2つめは、相続税・贈与税等の納税資金の確保です。事業を営むオーナー社長の手元にはどれだけの現金が残されているでしょうか。

 

相続税の納付は現金一括が基本であり、相続時の資産構成によっては、納税額は高額になりえます。手元の現金が十分でなく、土地や建物などの不動産ばかり相続した場合には納税資金の不足により非常に困窮してしまう恐れがあるのです。

 

相続税の軽減等の対策

相続税の支払いは現金一括が基本となります。

事業承継対策の最後の3つめは、相続税の軽減の対策です。

 

平成27年の相続税法の改正により基礎控除額が引き下げられたことで、実質的な課税対象者数は大幅に増えてしまいました。

【基礎控除額の60%引き下げによる実質増税】

改正前) 5000万円+(1000万円×法定相続人数)

改正後) 3000万円+(600万円×法定相続人数)

 

また、税率も引き上げられました。下図のとおり、2億円超から3億円以下の部分は40%から45%へ引上げられ、6億円超の部分は50%から55%へ引上げとなりました。相続税の負担の軽減の重要性は従来よりも高まっているといえます。

改正後税率テーブル

 

以上の3つの観点から具体的な解決方法を示していきます。

 

相続人の遺産相続争い防止の対策

多額の資産がからむ相続といえば、相続争いを心配される方が多いのではないでしょうか。対策が可能であれば、そういった争いは避けたいのが心情でしょう。いくつか解決方法をご紹介していきます。

 

株式は会社の持ち分

株式は会社の持ち分となる。

株式は会社の持ち分そのものであり、相続の対象となります。相続人が複数人いる場合には、その複数人での共有状態となり、総人数の過半数で議決権の行使をする必要があります。

 

遺言で承継する人間を指定しよう

被相続人が、遺言や生前贈与などで株式の相続先を定めている場合には、遺言内容に沿って相続人のうち指定されたものが単独で株式を承継することができます。

 

ところが、遺言や生前贈与などで承継する人を定めていない場合には、相続人間の意見の不一致が起こり、会社の経営が全くうまくいかなくなるケースに注意が必要です。

 

【関連記事】

遺言書のすべて~やさしい相続マニュアル~

 

なぜ特定の一人に相続させるべきか ワンマン経営の利点

ワンマン経営の利点は、強力なリーダーシップを発揮できることです。

家族経営、一族経営の企業においては、オーナー社長またはオーナー社長から株式を承継した後継者が株式の大部分を有しています。

 

大部分の株式を一人で有して経営している状態は、ワンマン経営だとの批判を浴びる側面もありますが、これはよくある勘違いです。民主主義と多数決でものごとを決めていく政治と異なり、会社は株主の所有物でありオーナー以外に誰も失敗の責任をとれる者はいません。

 

素早い意思決定で市場の変化に食らいつき生き残っていくことが必須の中小企業では、強力なリーダーシップを発揮して企業を率いていく意思決定が重要です。そのためには株式の所有者が分散していることは望ましくないのです。

 

この大部分の株式を単独で保有し、最終的な意思決定を個人でできる状態をきちんと確保しておくことは企業分裂を避け、一族の内紛を避ける一つの方法といえます。

 

相続人を後継者にしたくない場合はどうする

相続人を承継者としない方法

娘・息子などの相続人が後継者にふさわしくない、後継指名したくないと考えている場合には、遺言により敢えて後継者を別の者に指名して、所有と経営の分離の意思を示しておくことも考えられます。(株式までその後継者に遺贈または贈与するかどうかは別問題です。)

 

先立たれる方から明確に経営者としての指名があれば、相続人も納得しやすいといえます。

 

種類株式を利用する

種類株式を利用しよう

株式を相続人に相続分に応じて、または近しい比率で相続させる場合、相続人間で意見が対立した時に、会社としての意思決定ができなくなることがあります。

 

そうした企業内紛争を防止しつつ、株式による経済的利益を相続人に平等に享受させる方法として種類株式の利用が考えられます。

 

種類株式とは

種類株式とは?

種類株式とは、①議決権があり②配当を受けられる③譲渡自由な普通の株式とは異なる扱いをすることを定めた株式です。

 

例えば、①の議決権はない、配当を得ることだけできる株式というものを作ることができます。

 

普通の株式を後継者とする相続人に相続させ(または第三者に遺贈し)、このような議決権のない株式を他の相続人に相続させることで、相続人間の内紛を避けることができます。

 

また、③につき譲渡制限を株式につけることで、相続人以外の誰かが株式を取得し、経営に口出ししてくることを防ぐこともできます。

 

会社分割を利用する

会社分割も争いを防ぐ方法です。

会社の株式や経営権を丸ごと一人の相続人に承継するだけが事業承継の方法ではありません。

 

会社が複数事業を営んでおり、事業承継にあたって複数の相続人にそれぞれ別々の事業を営ませる方法もあり、その場合には会社分割が便利です。

 

複数の事業が相互に比較的独立しているのであれば、後継争いをさせるよりも事業ごとに相続人に任せた方が相続人間の関係維持も図りやすいのではないでしょうか。

 

今では会社分割の手続きも容易になり、適格会社分割の要件を充足すれば課税繰り延べによる税務上の優遇がされることもあります。

 

納税資金の確保のための対策

納税資金を確保する方法

中小企業の経営上、常に付きまとうのが資金の問題です。ただでさえ、使える流動資産が少ない中で相続という突発事情により資金繰りが悪化することだけはなんとしてでも避けねばなりません。

 

オーナー社長のような経営者の場合、不動産を抵当に入れる、会社の借り入れは個人の連帯保証が付くなど、実質的に個人の財産はすべて事業につぎ込んでおり、自由に使える財産がないという場合もめずらしくありません。。

 

納税負担に耐えられるだけの手持ちの資金を確保する方法としては、4つ考えられます。

 

  1. 自己株式の取得
  2. 株式の公開
  3. 相続税の延納
  4. 相続税の物納

 

自己株式を取得する

自己株式を取得する

自己株式の取得とは、会社が株主から自分の株を買い取ることを言います。

 

つまり、個人として手持ちの資金が乏しい経営者としては、会社の資金を自分の財産に置き換えることができるということです。

 

自己株式の取得をたくさん行えばいいわけではない

会社の財産を自由に自分の財産に置き換えることができると会社の財務状況を悪化させ、会社の経営が立ちいかなくなり債権者や他の株主などの利害関係者に多大な不利益を被らせかねません。

 

そのため、自己株式の取得ができる場合は会社法上規定された場合に限られ、かつ取得できる株式数も限定されています。

 

 

自己株式の取得は、税金対策としては、有用ではない?

自己株式の取得は税金対策としては、有用かどうか

税務上、株式の売主(オーナー社長やその息子等)が当初取得した株式の額と帳簿上の一株の価額(資本金等を発行済み株式数で除した額)の差額が株式の譲渡益として課税されるとともに、売却額と帳簿上の価額につきみなし配当課税がなされます。

 

相続税を支払うための資金にも課税がされるという観点から税金対策としての旨みは少なく、利用できる機会は限定的といえます。

 

例えば、納税予定者に資力がなく、みなし配当課税の税率が低い範囲内で利用することが考えられます。

 

株式公開を検討する

株式公開という方法

株式公開とは、株主がオーナー社長その他の家族親族に限られている会社の株式を広く一般の投資家に売り出すことです。

 

株式の全部または大部分を公開してオーナー社長が自身の持ち分を手放すこともあれば、一部を公開してオーナー社長が株式の過半数等の議事決定権を保持し続けることもあります。

 

 

株式公開をするとどうなる

株式公開をするということは、株式を売りたい人が好きに売り、買いたい人が好きに買うような状態にすることであり、証券取引市場に上場することとほぼ同義です。

 

自己資金を増やすという観点では、問題をダイレクトに解決する方法といえますが、投資家保護のために証券取引所の上場審査を受ける必要があります。

 

この上場審査は会社の経営体制や財務状態、組織の整備具合を非常に厳しい規定でもって審査することになるので、株式を公開するには多大な労力と費用を要します。

 

 

株式公開の問題点

株式公開の問題点

株式の公開をしても投資家からの企業評価が低いと、想定した通りの資金調達ができない可能性もあります。

 

さらに、株式を一般に公開しオーナー社長の持ち株比率が下がるということは会社経営に対しての方針を従来通りにきめることができなくなるということでもありますから、企業経営に対しても非常に大きな影響があります。

 

それゆえ、株式公開をするという意思決定も、それ自体が多分に経営上の判断をすべき対象であるといえます。

 

株式公開は納税資金対策をしようという目的のみではなかなか実現は困難ですので、早目に長いスパンでの検討が必要な方法といえます。

 

 

延納制度の利用

延納制度という方法の利用

上記二つの方法は限定的な場合や、大きなグランドデザインのもとに資金を確保する方法でした。

 

延納制度では、相続財産のほとんどが土地や建物といった換価困難なものであり、上記のような方法がとれなくとも、一定の要件のもと相続税の納付を分割で行い、納期を延期してもらう制度です。

 

下記の要件を充足し、税務署長の許可を受ければ、延納または分納をすることができるようになります。

 

 

延納制度の要件

延納制度の要件相続税の延納が認められるためには、以下の要件を充足し、納税地の所轄税務署長の許可を得る必要があります。

  • 相続税額が10万円を超えること
  • 相続税の納期期限(相続開始から10か月)までに、延納申請をすること
  • 延納税額に相当する担保の提供をすること
  • 納付すべき日に金銭で納付することが困難な事由があること

 

また、延納申請をするためには、以下の事由を記載した申請書を、納税地の所轄税務署長に提出する必要があります。

 

  • 金銭で納付することを困難とする金額およびその理由
  • 延納税額および期間、分納税額およびその納期限
  • その他財務省令で定める事項

 

物納制度の利用

物納制度という方法もある

相続税を上記の延納制度を利用しても、納付が困難である場合には、困難な金額について現物による物納をすることができます。

 

相続税の物納をするためには次に掲げる要件を充足し、納税地の所轄税務署長の許可を得る必要があります。

  • 延納によっても金銭で納付することを困難とする事由があり、かつ、その納付を困難とする金額を限度としていること
  • 物納申請財産は、納付すべき相続税の課税価格計算の基礎となった相続財産のうち、次に掲げる財産及び順位で、その所在が日本国内にあること
  • 1順位 国債、地方債、不動産、船舶、上場企業の株式・社債 
  • 第2順位 社債(短期社債等は除きます)、株式、証券投資信託又は貸付信託の受益証券 
  • 第3順位 動産
  • 物納に充てることができる財産は、管理処分不適格財産に該当しないものであること及び物納劣後財産に該当する場合には、他に物納に充てるべき適当な財産がないこと
  • 相続税の納期期限(相続開始から10か月)までに、物納申請をすること

【関連記事】

相続税の物納順位を国税庁が変更、上場株式は不動産等と同格に

 

相続税を軽減させるための対策

事業承継に対する相続税対策

ここまで、相続にかかる紛争の防止および納税資金対策についてみてきました。ここから先は3つ目の事業承継の対策として相続税負担の軽減策を紹介します。

 

相続税対策の基本的な考え方

相続税対策方法には、財産評価の引き下げによって相続税率を下げる方法と、非課税枠の利用の方法が有効です。この2つの方法をメインに見ていきましょう。

 

財産評価の引き下げ

財産評価引き下げの方法

相続税法は累進課税制度を採用しています。そのため課税対象となる財産の額が大きくなればなるほど相続税の支払い額が大きくなるという特徴があります。

 

これにより、相続財産の総額を低く算定できれば対応税率を低く抑えることができ、結果として相続税として支払う額を減らすことができます。

 

非課税枠の利用

相続税には非課税枠というものがあります

相続税法およびその他関連税法上、いくつかの財産の処分方法に対してその財産のうちの一部に課税をしない方針をとっているものがあります。そうした規定をうまく使うことで、相続にかかる税金の負担を軽減することができるのです。

 

それらの方法は、≪ 生前贈与を使った相続税対策≫・≪生命保険を使った相続税対策≫の項目でみていきましょう。

 

株式の評価方法

株式の評価方法

オーナー社長などといった同族企業の株主についての相続では、主たる財産が会社の株式であることが少なくありません。

 

証券取引所に上場している公開会社株式であれば、原則として市場価格で価値評価をすることができますが、上場していない株式の評価はどのようにすれば良いのでしょうか。

 

株式の評価方法2つ

上場していない企業の株式の評価方法としては、似たような業種の会社と比較する類似業種比準方式と会社の簿価を相続税法のルールにより評価した額から求める純資産方式があります。

 

類似業種比準方式

類似業種比準方式とは

類似業種比準方式とは、類似業種の株価並びに一株当たりの配当金額、年利益金額及び純資産価額をもとに以下の算式によって計算した金額を対象会社の株式の評価額とするものです。

類似業種比準方式

上記算式中の「A」、「B」、「C」、「D」、「B」、「C」及び「D」は、それぞれ次のとおりです。

「A」=類似業種の株価

「(B)」=評価会社の1株当たりの配当金額

「(C)」=評価会社の1株当たりの利益金額

「(D)」=評価会社の1株当たりの純資産価額(帳簿価額によって計算した金額)

「B」=課税時期の属する年の類似業種の1株当たりの配当金額

「C」=課税時期の属する年の類似業種の1株当たりの年利益金額

「D」=課税時期の属する年の類似業種の1株当たりの純資産価額(帳簿価額によって計算した金額)

(注1) 類似業種比準価額の計算に当たっては、B、C及びDの金額は1株当たりの資本金等の額を50円とした場合の金額として計算することに留意する必要があります。

(注2) 上記算式中の「0.7」は、中会社の株式を評価する場合には「0.6」、同項に定める小会社の株式を評価する場合には「0.5」とします。

(注3) 類似業種の株価「A」は、課税時期の属する月以前3か月間の各月の類似業種の株価および前年の平均株価のうち、最低額を選ぶことができます。

 

純資産価値方式

純資産価値方式とは

純資産価値方式とは、①財産評価基本通達に定める評価基準により算定した会社の純資産価額から②負債の合計額および③評価額と帳簿価額との評価差額に対する法人税額等に相当する金額を控除した金額を④発行済株式数で割り、一株当たりの価値を求める方法です。

 

計算式としては以下のとおりです。

 

一株あたりの評価額=(①-②-③)÷④

 

ということになります。

 

退職金を使った相続税対策

退職金を使った方法もある

会社に長く勤めあげた人に対しては、その功労に報いるため会社から退職金が支給されますよね。会社をご自身で所有・経営されているオーナー社長であってもその点は変わらず、会社から退職金を支給することができます。

 

そして、その退職金により会社株式の価値を下げ、相続税の負担を軽減することができるのです。

 

なぜ相続税の負担を軽くできるのか

オーナー社長への退職金の支払いにより、会社利益が減少します。

 

会社利益の減少は純資産の減少を伴い、類似業種評価方式および純資産価値方式による企業価値を引き下げることになるため、相続財産として課税対象となる総額を引き下げることになります。

 

 

社長の退職慰労金とは

退職金を使った相続税対策

オーナー社長たる(代表)取締役に対する退職慰労金は、在職中の職務執行に対する対価として支給されるので、報酬にあたります。

 

会社法上、取締役に対する報酬は定款により、または株主総会で以下の内容を定めることで支払うことができます。

  • 額が確定しているものについては、その額
  • 額が確定していないものについては、その具体的な算定方法
  • 報酬等のうち金銭でないものについては、その具体的な内容

 

 

退職金の税金

退職金の税金

退職金の支払いを受けた場合には、退職金の額について所得税および住民税がかかります。

 

しかし、退職金は退職後の生活資金としての側面が大きい点、および退職時に従前の功労に応じた額が一括で支給される点から、他の所得とは切り離して、所得金額に2分の1を乗じた額に税率を乗じて計算します。

 

通常の給与所得等に比べて税負担が大幅に軽減されているため、節税に有効な手段といえます。

 

 

生前贈与を使った相続税対策

相続税対策として、生前贈与も有用です。

贈与とは、ある人が自分の物を他人にあげるという契約です。「生前贈与」とは、この贈与を本人が存命の状態で行うことをいいます

 

そんなことは当然じゃないかとも思われますが、物を他人にあげるという行為は「遺言」によって行われるケースや、贈与者が自分の死後、自分の物を他人にあげることを生前に合意する「死因贈与」によって行われるケースも多いため、意味を明確にするため生きた状態での贈与のことを「生前贈与」といいます。

 

贈与税の計算方法

贈与税の計算方法

贈与税の計算方式は、

 

贈与税の支払額=(課税期間の贈与額-基礎控除額)×税率-控除額

 

で表すことができます。

そして、この基礎控除額が年間110万円ですので、将来相続人となる人へコツコツと110万円ごと生前贈与していけば、基本的に課税されることなく財産を相続人に移すことができます。

 

 

贈与は相続人だけに行わなくて良い

贈与は相続人以外に行っても問題ない

贈与は、相続人以外の人にも自由に贈ることができます。

 

遺言によって相続人以外の第三者に財産を分与することを示すと、相続人と受遺者(遺言により財産を受ける人)の間で軋轢が生じかねませんが、生前贈与であれば比較的穏便に財産をご自身の望む形で処分できるといえます。

 

 

贈与は効率的に財産を移転できる

贈与は財産を効率的に移転することが可能となる

相続税は相続が生じるたびにかかるものです。祖父から、子、孫へと財産が移転する場合には相続税を2回徴収される機会が生じることになります。

 

一方、祖父から孫へ財産を直接に贈与することで、課税機会を一回にすることができます。このような方法により財産を効率的に移転させることも可能です。

 

【関連記事】

◆贈与税と相続時精算課税制度とは?その違いをくわしく解説

 

 

生命保険を使った相続税対策

生命保険を使用しても相続税対策ができる

生命保険とは、被保険者に対して保険金をかけその被保険者の死亡により保険金をもらえる仕組みです。この生命保険を相続税の対策として利用することができます。

 

生命保険をかける契約内容によって生命保険の受取金にかかる税金の種類は異なります。

 

大きく契約内容を分けると次のようになります。

保険料の支払者 (契約者) 被保険者 死亡保険金受取人 課税関係
被相続人 被相続人 相続人 相続税
相続人(妻) 被相続人 相続人(妻) 所得税

(一括受取なら一時所得、

年金形式なら雑所得)

相続人(妻) 被相続人 相続人(子) 贈与税

 

どの保険パターンが有用?

生命保険を利用した相続税対策の有用な選択

どの税金がかかるのが一番安く済むかは一概には言えませんが、相続税にはそれなり大きな基礎控除ありますので、多くの場合には相続税の適用のある①の方法が有効です。

 

例えば、受取人が妻の場合には配偶者の税額軽減が適用できるので、法定相続分または1億6000万円までが非課税となります。また、生命保険により支払われる保険金に対しては、500万円×法定相続人の数だけの非課税枠があります。

 

これらの、相続税軽減策をうまく使うことでかなりの節税効果を狙うことができます。

 

 

事業承継税制を活用する

生命保険を利用した相続税対策の有用な選択

中小企業の経営者の高齢化が進み、事業承継を円滑に行うことは日本の中小企業にかかる重要な課題となっています。

 

ただし、事業にかかる資産が大きい場合には、多額の相続税負担がかかったり、後継者に株式の大部分を相続させようとすると遺留分の主張をされたりと円滑な事業承継の妨げとなっていました。

 

そこでこれらの問題を解決し、中小企業の事業承継をスムーズにするため、租税特別措置法、および経営承継円滑化法が制定され、事業承継税制ができました。

 

 

事業承継税制とは?

事業承継制度とは、納税負担の軽減、遺留分減殺の主張を防ぐことができる。

事業承継税制とは、重い相続税負担と遺留分減殺請求の主張というネックに対応するための制度です。それゆえ、一定の要件を充足すれば、納税負担が軽減できたり、遺留分減殺の主張を防ぐことができます。

【関連記事】遺留分の割合・計算方法を徹底解説。相続に泣き寝入りは禁物 

遺留分減殺について、相続人の側の視点でどのように勝ち取るかを解説した記事です。

 

非上場株式に係る贈与税・相続税の納税猶予制度

非上場の会社であれば、一定の条件のもと、経済産業大臣の認定を受けることで、被相続人から取得した株式の80%に相当する相続税または贈与税の納税が猶予されます。

 

ただし、相続前または贈与前から後継者がすでに保有していた議決権株式等を含め、発行済議決権総数の2/3に達するまでの部分に限ります。

 

 

非上場株式に係る贈与税・相続税の納税猶予制度の要件

非上場株式に係る贈与税・相続税の納税猶予要件とは

被相続人から取得した株式の80%に相当する相続税または贈与税の納税が猶予されるための要件とは、以下の点になります。

  • 雇用の8割以上を5年間平均で維持すること
  • 後継者が代表を継続すること
  • (贈与税の場合のみ)現経営者が代表者を退任すること(有給役員として残留可)
  • 対象株式等を継続して保有していること
  • 上場会社、資産管理会社、風俗関連事業を行う会社でないこと

 

詳しくは、各会社所在地を所管する経済産業局のホームページをご覧ください。

 

遺留分に関する民法の特例

遺留分には特例があります。

遺留分制度は遺言によっても侵害することのできない相続人の権利を守る制度です。

 

ところが、事業譲渡において大部分の資産を後継者に相続させたり、生前贈与させると遺留分の主張がされる恐れがありました。

 

上記経営承継円滑化法(遺留分に関する民法の特例)により、後継者が取得した財産に関して、相続人全員が合意することにより、株式や事業に必要な財産について遺留分算定の基礎から除外すること等ができるようになりました。

【関連記事】

遺留分の割合・計算方法を徹底解説。相続に泣き寝入りは禁物です。

 

特例を使用するための注意点

遺留分にかんする特例の注意点

この特例を利用するためにはいくつかの注意が必要です。

 

  • まず、後継者が対象となる会社の株式の過半数(合意対象株式を除く)を有しているときはこの合意はできません。
  • 合意内容は、株式やそれ以外の財産について①遺留分の財産算定の基礎から外すこと(除外合意)や②遺留分算定のための評価額をその合意時の価額とすること(固定合意)ができますが、②については弁護士や公認会計士、税理士などが相当な価額と証明したものに限ります。
  • 合意をするためには、会社、旧経営者、後継者についての特定の要件を充足する必要があります。
  • 合意内容について経済産業大臣の確認が必要です。
  • 上記の確認後に家庭裁判所の認可を受ける必要があります。(この認可がないと合意の効力が生じません。)

詳しくは経済産業省 中小企業庁 事業環境部 のホームページをご覧ください。

http://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/2014/141217Yoshiki.htm

 

 

相続と事業承継対策:記事のまとめ

事業承継をまとめて解説

事業承継と相続にかかわる問題についてみてきました。事業承継はオーナー社長率いる同族会社の命運を担う大きな意思決定です。

 

事前の準備によって親族間の関係を円満にし、納税資金を確保し、節税対策も施すことができる反面、何も手を打たなければ大きな痛手を負ってしまうことになりかねません。

 

「まだうちの会社には早い問題だよ」と思わずに、来る事業承継に備えるためきちんと対策を練りましょう。

 

【関連記事】

遺言書のすべて~やさしい相続マニュアル~

遺留分の割合・計算方法を徹底解説。相続に泣き寝入りは禁物です。

◆贈与税と相続時精算課税制度とは?その違いをくわしく解説

 

執筆者: やさしい相続編集部